自己承認力コンサルタントの尾形さくらです。
いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。

人材育成の文脈で「おひたし」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

「怒らない・否定しない・助ける・指示する」

報連相しやすい上司の姿勢として、研修や書籍などでも紹介されることがあります。
確かに、どれも大切な要素です。

しかし、研修やコンサルティングの現場で
管理職の方とお話をしていると、少し違和感を感じる場面もあります。

最近、管理職の方からよく聞くのがこんな声です。

「注意するとハラスメントと言われるのではないか」
「どうやって指摘したらいいのか分からない」
「昔のように指導していいのか迷う」

その結果、部下に何も言えなくなってしまう。
そんな状況も見かけます。

今日は、人材育成の現場で感じる「“おひたし”が有効は、本当になのか?」
3つの違和感について整理していきます。


人材育成のおひたし①「怒らない=何も言わない」になっている

1つ目の違和感は、
「怒らない」が「何も言わない」になってしまっているケースです。

確かに、感情的に怒ることは良いことではありません。
怒鳴ったり、人格を否定するような言葉は、信頼関係を壊してしまいます。

そのため、多くの企業で
「感情的に怒らない指導」が浸透してきました。

実際に、感情的な関わり方は人が育ちにくく、
離職率も高くなることが多いため、効率的とはいえません。

しかしその一方で、
「何も言わない上司」が増えているのも事実です。

以前は厳しく部下を育ててきた上司が、
ハラスメントを気にするあまり、指導したくても遠慮してしまう。

関わり方の工夫をするのではなく、
「関わらない」ことを選択してしまう方もいるようです。

そして上司同士が集まると、
「最近の若い人はさ…」と愚痴になってしまう。

人は、自分では気づけないことがたくさんあります。
本人がいないところで愚痴を言っても部下は変わりません。

上司のフィードバックは、必要不可欠です。

本当に人材育成で大切なのは、
「怒らない」というよりも、「冷静に伝えるスキル」なのです。


実は若手社員は「指導してほしい」と思っている

ここで一つ、研修現場でよく聞く声をご紹介します。

私は新入社員研修や若手社員研修を担当していますが、
若手の方からこんな声をよく聞きます。

「頭ごなしに怒られるのは嫌ですけど、
ちゃんと指導はしてほしいです」

多くの若手社員は、何も言われないことよりも
放置されることの方が不安なのです。

上司が「怒らないようにしよう」「言わない方がいいかもしれない」
と思って、あえて指摘をしなかったとしても、
その意図は部下には伝わりません。

何も言わない上司は、残念ながら信頼されにくいものです。


人材育成のおひたし②「否定しない=課題を伝えない」になっている

2つ目の違和感は、
「否定しない」が「課題を伝えない」になってしまっているケースです。

「否定しないことが大切」と聞くと、
部下の意見をすべて聞き入れることだと誤解されることがあります。

しかし、否定しないとは
賛同することでも、同意することでもありません。

否定しないとは、受け止めることです。

相手の話を一度キャッチし、
背景や意図を理解しようとする姿勢です。

そのうえで、チームにとって必要な課題を伝える。

これは決して否定ではなく、成長を支える関わりです。
むしろ、課題を伝えないことの方が部下にとって不親切な場合もあります。


人材育成のおひたし③「助ける・指示するだけ」では主体性は育たない

3つ目の違和感は、
「助ける・指示するだけでは主体性は育たない」という点です。

部下が困っているときに、上司が助けることはもちろん大事です。
しかし、人材育成における「助ける」とは
上司が仕事を代わることではありません。

本来の意味は、
・サポートする
・視点を与える
・一緒に整理する
・アドバイスをする
・導く

といった関わりです。

上司が答えを出し続けてしまうと、部下は自分で考えなくなります。

そのため、時にはサポートとして
「あなたはどう思う?」
「次はどうしたらいいと思う?」と問いかけることも必要になります。

助ける=手助けをする、仕事を全部引き受ける、ではないのです。


注意や指導で絶対にやってはいけないこと

私自身、新入社員研修や若手社員研修を担当する中で、
常に意識していることがあります。

それは、役割や立場には圧があるということです。

上司からするとちょっとした注意であっても、
相手には圧がかかっているため、
「怒られた」と感じてしまうこともあります。

だからこそ、絶対にやってはいけないのが
人格否定です。

もしも、注意や指摘をするのであれば、
その人ではなく「行動」にフォーカスをすることです。

例えば
「あなたのここがダメ」ではなく
「このときの行動はこうした方が良い」と伝える。

そして改善できたときには
「そうです、それです」と一緒に確認する。

このような上司部下のやりとりの積み重ねが、
安心して部下が成長できる関係をつくります。


人材育成はトップダウンからチームへ

人材育成が難しくなっている背景には、
「指導のスタイルが大きく変化していること」があります。

平成時代の組織は、上司が上から教える
「トップダウン型」の育成が主流でした。

上司が答えを持ち、部下に教える。

しかし最近は、
「同じチームの仲間として一緒にゴールを目指す」
そんな関わり方が求められる場面が増えています。

同じ目線でゴールを考える、という前提で関係を築いていくと
意見を出し合うことが自然になります。

上下関係に強いこだわりを持つのではなく、
同じゴールを目指す仲間として対話すること
その感覚のアップデートが必要かもしれません。


まとめ|人材育成で本当に大切なこと

いかがでしたでしょうか。
一時期広まった人材育成における「おひたし」は、
キャッチーでわかりやすく、上司の姿勢として参考になる部分もあります。

しかし、言葉だけが一人歩きすると

怒らない=何も言わない
否定しない=指摘しない
助ける=仕事を代わる

といった誤解が生まれてしまいます。

人材育成で本当に大切なのは

相手の話を受け止めること
必要な指摘を伝えること
成長を支えるサポートをすること
対話を通して考える機会をつくること

です。

そしてもう一つ、問われているのは
上司自身の自己承認力です。

自己承認力とは、
自分を認め、自分を信じて前に進める力。

この力がある上司は、部下にどう思われるかを過度に恐れることなく、
「成長のために必要なことを伝える」という関わり方ができるようになります。

人材育成とは、
相手の成長を信じて、責任を持って関わること。

その姿勢こそが、
信頼関係を育て、チームを強くしていくのではないでしょうか。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます!
また次回のコラムでお会いしましょう。