こんにちは!自己承認力コンサルタントの尾形さくらです。
いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。
「部下育成は現場の上司がやっているから大丈夫!」
「うちは人事課で定期的に研修やってるから教育体制はバッチリ!」
こんな風に部下育成を教育課・人事課に丸投げ、またはその逆で「現場で育てるのが当たり前」と全て現場任せにしていませんか。そのやり方で、未来を担うリーダーは育っているでしょうか。
企業の成長において、人材育成は欠かせません。AIやシステム化が進んでも、会社を支えるのは「人」です。企業の未来を担う人材を育てることは、経営層や人事部門だけの役割ではなく、管理職一人ひとりの責任でもあります。
今回は、人材育成を丸投げしてしまう企業の特徴とそのリスクを解説し、教育課・人事課と現場の上司がどう連携すれば効果的に部下を育てられるのかを考えていきます。
あらためて「教育課・人事課が担当する人育ての役割」と部長・課長・マネージャーなど「現場のリーダーが担当する人育ての役割」も整理しますので、今のご自身の部下との関わり方も一緒に振り返ってみましょう。

なぜ部下育成を「教育課・人事課に丸投げ」するのか?
まず、企業が部下育成を教育課・人事課に丸投げしてしまう理由を考えてみましょう。
① 目の前の業務に追われ、時間が取れない
管理職は日々の業務で手一杯になりがちです。売上管理、クレーム対応、シフト調整など、部下育成以外の業務も山積みです。「育成まで手が回らない」「時間がないから人事課に任せよう」と考えてしまうのは、無理もありません。管理職の業務を見直す必要があります。
② 育成に自信がない
「どうやって指導すればいいのかわからない」そう思うのは当然です。
部下育成の前に、上司育成です。部下を持つ上司に対して部下育成の仕方を指導していますか。何も教わらずに我流の部下育成には、限界があります。管理職に昇進したばかりの方や、部下育成の経験が少ない方が、自信がないために教育のプロに任せたくなる気持ちも理解できます。
③ 教育課・人事課のほうが専門的なスキルがあると思っている
教育課や人事課には、心理学やコミュニケーションスキルを学んだプロフェッショナルが多く、研修の設計や実施に長けています。現場の方が「専門家がいるのだから、任せたほうが安心」と思うのも当然でしょう。しかし、教育課・人事課は「人材育成のすべてを担う場所」ではありません。
直属の上司が育成に関わらなければ、現場での学びが定着しにくくなるのです。
教育課・人事課に丸投げするデメリット
育成を教育課や人事課に完全に任せてしまうと、次のような問題が発生します。
① 実践力が身につかない
研修で学んだことが現場で活かされず、机上の空論になりがちです。理論を学ぶことは大切ですが、それを実際の業務でどう活かすのかを上司がサポートしなければ、スキルとして定着しません。せっかく学んだことが活かされないのはもったいないです。
② 上司と部下の関係性が希薄になる
直属の上司が部下育成に消極的だと、信頼関係が崩れやすくなります。普段から部下の業務に目を向けず、学びの機会やアドバイスも提供しないのに、数字や時間の管理だけを厳しく求められたら、不快に感じるのは当然です。その結果、部下のモチベーションが低下し、信頼関係にも悪影響を及ぼします。
③ 研修だけでは育成は完結しない
学んだスキルを現場で実践し、優れた者から積極的に吸収することで成長します。研修を受けるだけでは、部下は「やった気」になり、実践の機会がなければ成長が止まってしまいます。
④ 現場の課題に対応しにくい
研修は新たな知識を得たり視野を広げたりすることができ、自分自身を振り返る貴重な機会にもなります。しかし、研修で学んだ内容だけでは、現場特有の課題や具体的なケースにそのまま対応することは難しいものです。実際の現場で直面する問題を解決するには、やはり上司が積極的に育成に関与することが欠かせません。
⑤ 成長の実感が得られにくい
上司が関与しない本部任せの研修だけでは、知識は身につきますが、現場の業務と結びつきにくく、部下は「自分は本当に成長しているのか?」と実感しづらくなります。その結果、学びが定着せず、モチベーションの低下を招くことにもなりかねません。上司が日々の業務の中でフィードバックを行い、研修の学びを現場で活かせるようサポートすることが不可欠です。

なぜ部下育成を「現場に丸投げ」するのか?
では逆に、「部下育成は現場がすべて」と考えて、本部がほとんど関わらないケースをご紹介します。
① 「現場の実践で十分」と考えている
「仕事はやりながら覚えるもの」「現場で学ぶのが一番」という考えがありませんか。確かに、実践の場で得られる学びは大きいですが、研修では基礎だけでなく、専門知識や新しい視点、効率的な方法も学べます。現場の経験だけに頼ると、成長のスピードが遅くなり、結果的に部下が苦労することにもなりかねません。
② 教育を後回しにしている
本部が多忙のあまり人材育成を後回しにして、「教育は現場に任せきり」となることがあります。「人は企業の宝」にも関わらず、育成が現場任せでは、指導の質にバラつきが生じ、場当たり的になりがちです。その結果、成長の機会を得られなかった人材が辞めると、本部は現場の責任として片付けてしまうことも少なくありません。
③ 企業全体で取り組む意識がない
本部も関わり、企業全体で人を育てる意識がなく、「教育は現場の管理職が対応すべき」と考えてしまうことがあります。しかし、本部が積極的に関与することで、新たな視点や体系的な育成の仕組みが生まれ、人材の成長を促すことができます。現場任せでは育成に偏りが生じ、結果的に企業全体の成長を妨げる要因にもなりかねません。
現場に丸投げするデメリット
人材育成を現場に任せきりにしていると起こる弊害をご紹介します。
① 育成の質がばらつく
指導方法が人によって異なり、社員の成長スピードにムラが生まれます。自己流の指導では「個人の価値観」が入ってしまうため、ルールが統一されにくくなるのです。また、「教えるのが上手な人」と「指導経験が少ない人」の差が大きくなり、育成の標準化が進みません。
② 指導者の負担が大きくなる
本来の業務に加えて部下育成の全責任を負うことで、上司自身が疲弊しやすくなります。本部のサポートもない状態では、部下育成の優先度が下がり、後回しにされることも増えていきます。結果、部下が育たずに悩む管理職が増えることになります。
③ 短期的なスキル習得に偏る
現場での指導は、業務遂行には役立ちますが、「なぜこの仕事をするのか」「どうすればもっと良くなるのか」 といった思考力や視野の広がりが欠けてしまいます。「目の前の仕事をする」「言われたことをこなす」だけの社員が育ちやすくなります。
④ 心理的安全性が低下する
Off-JTがない現場のみの指導では、忙しい上司から直接学ぶことが限られるため、部下が不安なままで仕事をすることが増えます。「基本を振り返る」「ルールを再確認する」などの機会がなく、さらに「ミスをすると怒られる」という文化が根付きやすいです。その結果、部下の主体性やチャレンジ精神が育たなくなります。
⑤ 心が育ちにくい
仕事のスキルだけでなく、働く姿勢やキャリア観を育む機会が減ってしまいます。
相談できる環境がないため、部下は「自分は成長しているのか?」と不安を抱きやすくなります。また、
悩みや課題を共有する場がないと、モチベーションの低下や早期離職に繋がる可能性もあります。

「教育課・人事課」と「現場」の役割分担
企業全体で人材育成を進めるためには、教育課・人事課と現場の管理職がそれぞれどのような役割を担うのかを明確にすることが重要です。
企業によっては、「研修は人事課がやるもの」「部下育成は現場の責任」といった認識が定着してしまい、人材育成が十分に機能しないケースもあります。しかし、本来は教育課・人事課と現場の管理職が連携してはじめて、人材育成の効果は最大化されるものです。時には本部が数名現場に足を運んだり、現場の管理職が他部署の研修を行うこともいいでしょう。どれだけ連携がとれているか、がポイントになります。
では、それぞれの部署が基本的にはどのような役割を持っているのか、具体的に見ていきましょう。簡単に表でまとめていますが、連携をとることを前提として柔軟に捉えてみてください。
役割 | 上司が担うこと | 教育課・人事課が担うこと |
---|---|---|
基本的な仕事の指導 | 日々の業務を通じたOJT | 指導のフレーム作り(マニュアル・ガイドライン) |
育成方針の策定 | 部下の成長目標を決める | 育成の標準化・研修計画の策定 |
日常のフィードバック | 成長ポイントや改善点を伝える | 研修の評価・フォローアップ |
スキルアップ支援 | 実務的な指導・アドバイス | 専門研修の実施 |
メンタルケア・相談対応 | 日々のコミュニケーション | キャリア相談・心理的サポート |
現場の上司が担うこと
現場の管理職が最も大切にすべきなのは、日々の業務の中で部下を成長させること です。
教育課や人事課が研修を提供しても、実際に部下が「できるようになる」ためには、現場での実践を通じた学びが不可欠です。
例えば、営業職であれば、提案の仕方を学ぶ研修を受けた後に、実際の商談で試す機会をつくり、上司がフィードバックをする ことで、初めてそのスキルが定着します。
具体的に、管理職が担うべき役割は以下の通りです。
① 仕事の基本を教える
業務の流れや優先順位、判断基準を明確にし、部下が迷わず行動できるよう指導する。
例:「発注業務の流れ」「ミスを防ぐチェック方法」などを日々の業務で実践的に教える。
② 期待する成果と基準を明確にする
部下が目指すべき目標を示し、具体的な評価基準を共有することで、成長の方向性を明確にする。
例:「1ヶ月後には○○の業務を一人で対応できるようにする」など具体的な目標を伝える。
③ 定期的なフィードバックを行う
成長のポイントや改善点を伝え、次のステップを示すことで、部下が継続的に学べる環境をつくる。
例:「プレゼン資料の構成は良かったが、話すスピードをもう少しゆっくりするとさらに伝わりやすくなる」など、具体的なアドバイスを行う。
④ 部下の悩みを直接聞く
日々のコミュニケーションを大切にし、業務の不安や人間関係の悩みに耳を傾けることで、心理的安全性を確保する。
例:「最近、仕事で困っていることはない?」とランチや休憩時間に気軽に声をかける。

教育課・人事課が担うこと
教育課・人事課の役割は、管理職が部下育成をしやすい環境を整え、組織全体の成長を支援すること です。
現場の上司が育成に取り組みやすいように、指導のフレームを整備し、必要なスキルを研修で提供し、育成のフォローアップを行うこと が求められます。
① スキルアップ研修の提供
管理職が現場で教えきれない専門知識や技術を体系的に学ぶ機会を提供する。
例:「営業向けの交渉術研修」や「リーダーシップ研修」を実施し、実践力を強化する。
② コミュニケーションやマネジメントの支援
管理職向けの研修を実施し、部下育成に必要な指導力やチームマネジメントスキルを強化する。
例:「1on1ミーティングの進め方」「部下のモチベーションを高める声かけ」などの研修を実施。
③ 研修の評価とフォローアップ
研修後の効果を確認し、上司と連携して部下の成長を促す仕組みを整える。
例:「研修後に管理職と面談し、部下の成長がどのように現場で活かされているかを確認する。」
④ メンタルケア・キャリア相談
管理職では対応しきれない部下のキャリアや心理的な悩みに対応し、働きやすい環境をサポートする。
例:「キャリア相談窓口を設け、上司に言いづらい悩みを相談できる機会を提供する。」

まとめ:「人材育成は誰かに任せるのではなく、共に支える意識を」
「育成は、任せるものではなく、共に支えるもの」
この意識を持つことで、組織全体の成長につながります。
また、人材育成をするためには、「まず管理職自身が学ぶことが必須」です。
現場の経験だけで「なんとなく」指導をしていても、部下が育つとは限りません。
本気で人材を育てる企業は、「指導する人を育てる仕組み」から整えていきます。
管理職が部下育成の知識やスキルを学ぶ機会があるか?
そして、そのスキルを磨く環境があるか?
企業全体として、その仕組みができているかを、ぜひ振り返ってみてください。
「上司が学び、育成の文化を作ることが 企業の未来をつくる」
そう考えたとき、皆さんの会社ではどんな仕組みが必要でしょうか?
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます!
また次回のコラムでお会いしましょう。