こんにちは!自己承認力コンサルタントの尾形さくらです。
いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。
人材育成の現場で、驚くほど頻繁にいただくテーマがあります。
「褒めたら調子に乗るので、あまり褒めたくない」
「褒めたら逆にパフォーマンスが落ちた」というご相談です。
褒めることが大事、と言われる一方で、
実際の管理職の方は、現場でこんな“困りごと”に直面しています。
- 褒めたのに、次の成果が下がった
- 喜んではくれるが、それが行動につながっていない
- 褒めたつもりが「???」という顔をされる
- 調子に乗って、ミスが増える気がする
今回は、こんなジレンマにお悩みの管理職の方に向けて、
人が育つうえで、褒めることは本当に効果的なのか?
成果につながる褒め方のコツをご紹介いたします。

事例:部下を褒めたらパフォーマンスが落ちる?
実は、飲食店の管理職の方にこんなエピソードを伺いました。
「褒めて育てることを自分も意識し始めました。
それで先日、部下の料理の出来栄えを褒めたら、すごく喜んでくれたんですが、
次につくった料理の質が、そうでもなかったんです」
その管理職の方は、「褒め方が下手だったのか?」「むやみに褒めない方が良いのかな」と思い、それ以来あまり褒めなくなったそうです。
一見すると、「褒めたせいで部下が調子に乗って、仕事の質が下がった」ように見えるかもしれません。
しかし、部下が成長するうえで、必要な行程。
心理学では、急に評価されたときに起きる
self-consciousness effect(自意識効果)という現象があります。
簡単に言うと「あ、見られているな」と意識することで、行動を整えようとする心理作用です。
どなたにでも経験があるのではないでしょうか。
「いま、自分は人に見られている」と思うと…
- 緊張や嬉しさで気持ちが高ぶる
- 「次も良いところを見せなきゃ」という意識が強まる
- 力みが出て、逆にパフォーマンスが下がる
つまり、“褒められる”経験が少ない人ほど、最初はバランスを崩しやすい。
この反応は、子どもでも大人でも同じです。
学生時代もありましたよね。
年に何度か授業参観があると、「見られている!」と感じてクラス中がソワソワしている。
「いいところを見せたい!」と張り切りたくなる。
もしも、毎日授業参観があれば、落ち着いた授業風景を見てもらえるはずですが、
たまにしかないイベントだから気分が高揚するのですよね。
これと同じことが、職場でも起きています。
つまり、これまで評価をされてこなかった仕事に対して
急に褒め言葉をもらったので、気分が一時的に揺れただけ。
原因は、これまでフィードバックが極端に少なかったことなのです。
褒めてもうまくいかない!よくある失敗する3選

ここからは、実際に私自身の経験や管理職から相談された内容も踏まえながら、
「人材育成として失敗しやすい褒め方」を3つ紹介します。
失敗する褒め方①:単純に褒めるだけ
意外に失敗することが多いのが
「すごいね!」「さすが!」「素晴らしいね!」と単純に気持ちを伝える褒め言葉です。
発する方も言葉を出しやすいですし、褒められた方もとても嬉しい。
気持ちも盛り上がるものです。
ただ、部下の成長をメインに考えた場合は、「単純に褒めるだけ」で終わると育成効果は薄くなります。
「どこがいいのか?何を褒めているのか?」が明確に残らないため、再現性が低くなってしまうからです。
実際、先ほどの料理の事例でも、上司が部下に伝えた褒め言葉は、
「すごい!めちゃくちゃ出来がいいね」だったそうです。
単純褒めは、相手のモチベーションは上げるけれど、行動の指針にならない。
では、どうすればいいのでしょうか。
◎単純な褒め言葉 × 具体的な良い点
例:
「すごい!今日の出来、最高だよ。焼き目がきれいで美味しそう!焼き時間のタイミングが絶妙」
“感情が動く褒め”と“行動が明確になる褒め”をセットにすると、
調子に乗るのではなく、成長の方向に意識が向きます。
失敗する褒め方②:褒めたつもりが伝わっていない
これは本当に多いです。
- 「すごいじゃん、今日はどうしたの?」
- 「前よりはよくなってるよ」
- 「まぁ悪くないね」
上司本人は、自分が出来る範囲で褒め言葉を投げかけたつもり。
しかし、この言葉を受け取った部下はどう思うでしょう。
「今日はどうしたって何?頑張ったのに嫌味か…」
「前はひどかったってことだよね」
「悪くない、は良くもないってことか」
褒め慣れていない方が、褒めたつもりでやってしまう表現です。
冗談が言い合えるくらいに関係性が築けているなら、
伝わる可能性はありますが、それでも「褒め言葉」とは言いにくいものです。
◎褒め言葉は冗談にせず、素直に伝える。
「すごいね、良い調子だね。」
「前よりさらによくなってるね!特に○○がわかりやすい!」
まっすぐに相手に届くように、素直に伝える意識をしましょう。
変に冗談を入れたり、前はできなかったのに…というニュアンスを入れるのはおすすめしません。
せっかく伝えるなら、相手に届く褒め言葉を選びましょう。
失敗する褒め方③:褒め言葉とダメ出しをセットにしている
これも「褒めたつもり」に入るパターンです。
- 「返事はいいけど、笑顔がない」
- 「丁寧だけど、スピードが遅い」
- 「がんばっているけど、結果が出ていない」
褒めたいのか?ダメ出しをしたいのか?
上司は褒めたつもりでも、部下が受け取るのはダメ出しの部分のみです。
◎褒め言葉は「。」で区切る→ 改善点は「建設的なアドバイス」として伝える
例えば、「返事はいいけど、笑顔がない」というフィードバックの場合
- 「〇〇さんは返事が元気でいいね!素晴らしい。」
- 「柔らかい笑顔を少し足すと、より感じがよくなるよ。そうそう、そんな感じ!」
褒め言葉は区切る。伝えきってからアドバイスをします。
さらに「そう!それです!最高です」と褒めると、褒め言葉のサンドイッチになり、より印象に残ります。
いま出来ているところを認め、さらによくするには…をアドバイスする。
これが育成の基本形です。
“成果につながる褒め方”のポイント
まず、先にお伝えしたいのは「成果につなげるために褒める」という動機は、相手に伝わります。
思ったことを素直に伝える、という前提で褒め言葉を伝えていただくことが一番です。
結果的に、部下が育ちやすい褒め方のポイントは以下の通りです。
① 単純な褒め言葉で感情を動かす(火種)
「すごいね!」「完璧だよ!」「いいね!」
単純な褒め言葉は、シンプルでパワーがあります。ここから始めましょう。
② 具体的な行動・工夫を伝えて、再現性をつくる(骨組み)
・何が良かったのか
・どの行動が成果につながったのか
「具体的に何を褒めているのか」を明確にすると、部下の行動が安定していきます。
③ 褒めは必ず独立させる。言い切る。
褒め言葉を「。」で終える。
そのあとに改善点を“追加のアドバイス”として添える。
④ 謙遜されたら「私はそう思う」で受け取ってもらう
褒め言葉を伝えると、「ありがとうございます」と受け取ってくれることもあれば、「いえいえ…」と謙遜することもあります。
相手が謙遜した場合には、もう一押し褒め切りましょう。
「本当に、私はそう思うよ」
こう言い切ることで、褒めの効果が定着します。
⑤ 短期的ではなく、長期視点で見る。
褒めればすぐにモチベーションが上がって、仕事の成果もあがると思っていませんか。
これまでの関わりの積み重ねや部下の特徴によって、出てくる反応はさまざま。
特に褒められ慣れていない方の場合は、
- 初期は舞い上がることもある
- 一時的に自意識が増えてパフォーマンスが落ちることもある
- 褒められる経験が増えると、安定して成長する
こんな風にとらえていてください。
つまり、「褒めてもダメだ」「全然聞いていない」「逆に失敗する」など
短期の揺れを“問題”と捉えないことです。
上司が部下を認め、褒め続けることで、必ず部下の力は安定していきます。

「認める・褒める」は長期的な育成技術
本来、褒めることは長期的にはパフォーマンスを安定させ、
再現性のある行動につながる“育成に欠かせない技術”です。
人は「認められない職場」では決して伸びません。
せっかく能力の高い部下がいたとしても、
「誰も認めない、褒めない」環境では、部下の成長が止まることもあります。
周りの人に認められ、喜ばれ、自分の強みに気づき、行動が強化される。
この積み重ねで、“自信を持って力を発揮できる人”が育っていきます。
管理職の皆さんには、“心から素直に褒める力”を、
ぜひ育成スキルの一つとして磨いていただきたいと思います。
今日からひとつでも、現場で意識してみてくださいね。
きっと部下の表情や行動が、少しずつ変わっていきます。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
また次回のコラムでお会いしましょう(^^)
